amazarashi

amazarashi
NEW MINI ALBUM

虚無病

2016.10.12RELEASE

― 小説 ―

amazarashi MINI ALBUM 「虚無病」より

オリジナル小説

「虚無病」
初回生産限定盤

初回生産限定盤CD+DVD+DL

AICL 3175~7 ¥2,000 (tax out)

amazarashi LIVE 360°「虚無病」
スマホ用ダウンロードコード(1Track)
ダウンロード期間:2016.11.1~2017.4.30

Premium LIVE VIEWING
「世界分岐二〇一六」よりライブ映像3曲

クリア三方背ケース

小説「虚無病」封入
通常盤 通常盤 通常盤 通常盤 通常盤
  • 通常盤
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  • 通常盤
  • 通常盤
  • 通常盤

通常盤CD

AICL 3178 ¥1,500 (tax out)

初回仕様
「虚無病」キャラクターランダムジャケット
(5枚封入)

CD

  • M1 僕が死のうと思ったのは
  • M2 星々の葬列
  • M3 明日には大人になる君へ
  • M4 虚無病
  • M5 メーデーメーデー

DVD【初回盤のみ】

  • amazarashi Premium LIVE VIEWING「世界分岐二〇一六」
  • 穴を掘っている
  • この街で生きている
  • ナモナキヒト

― ミュージックビデオ ―

『虚無病』Live Ver.
『虚無病』

NEW MINI ALBUM「虚無病」

配信中

― 小説 ―

虚無病

第二章

夕方、ヒカルが自室の床にコピー用紙を敷き詰めていた。かねてから調査していた虚無病に関する資料だ。インターネットのニュースサイトや、省庁公式サイトに掲載された注意文のコピー、この付近の地図。聞きかじった噂を書殴った紙もあった。
 ヒカルの家で三人で暮らしはじめてから二年近くになる。正確に言えばヒカルの父親を入れて四人だが、虚無病患者を一人と数えるのは、僕にははばかられた。“言葉”が危険なものとなった今、信頼できるもの同士寄り集まるのは必然だった。

 ヒカルは日に焼けた赤銅色の腕で、コピー用紙を並べながら、僕とサラに説明する。
「もうこの辺の食料は限界だっていう話しはしただろう」
 サラは遠慮がちにうなずく。いつもは天真な彼女も、いよいよかと構え、憂鬱な表情だった。
「ここを出て行くのはしょうがないとして、問題はどこへ行くかだ」
 みずから率先してこの付近を散策していたヒカルが、以前から食料調達が難しくなってきたと話していたのは僕らも知っている。スーパー、コンビニ、食品工場、農家の倉庫、窃盗の真似事を僕らは繰り返してきたが、それももう限界だとは感じていた。だからこそ食料は切り詰めていたが、それでも切羽詰まった選択をいよいよ迫られている。
 ヒカルが提案したのは県境をこえたM市へ向かう事だった。M市はここより都会だし、その近郊には山や自然も多い。農業も盛んだから、最終的には農作物を作り、自給自足で暮らすのが一番いい、とヒカルは続けた。
「でも、この町に食料がないんだったら、M市だって一緒じゃないか?」
 僕が問うが、
「でももうここに留まる理由はない」
 そうヒカルに言われて、ヒカルの父親の顔が浮かんだ。そして同時に自分の両親を思い出して、罪悪感に胸が疼いた。

「楽しそう」
 サラの素っ頓狂な言葉は、張りつめた部屋で滑稽にたわんだ。無理をしてるのが分かった。ヒカルに気を使っているのだ。でも、その気遣いにいつも救われていた。特に僕は。
「あとは暴漢が市内をうろちょろしてるから、できるだけ身を隠していこう。最近は変な宗教も流行ってるらしい」
 ヒカルは神妙な顔で言った。「変な宗教?」とサラが聞きかえす。
「虚無病患者を仏様と崇めてるらしい。こんな時代だからな」

 そこまで話して、ヒカルは「さあ」と立ち上がった。もう夕焼けの橙も暗色を強め、夜になりつつあった。僕も覚悟を決めて立ち上がったが、サラは口元だけに微笑みを貼付けて、一点を見つめて座っていた。



「じゃあ親父、寝てくれるか」
 そのヒカルの言葉に、懐かしい温みを感じた。ヒカルの父親は相変わらず無反応だったが、長く伸びた前髪から覗く瞳は、肯定の光をたたえたように見えた。
 ヒカルが父親の手をとり、庭の深い穴にいざなう。父親の足取りは赤子のようで、手を引くヒカルの顔に浮かぶ不安と慈しみは、まるで父親のそれだ。ちぐはぐだった。
 穴の底に父親を仰向けに横たえ、父親の胸に顔をうずめた。目を閉じて、心音を確かめるみたいに。今度はヒカルが抱っこをせがむ幼子のように見えた。
 僕はたまらず目をそらす。サラは軒先にうずくまって、両手で泣き声を塞いでいるようだったが、しゃくり上げた声は漏れ出て、虫の泣き声と混じり合って静謐な夜空に響いた。

「お待たせ」とヒカルが穴から這い上がり、三人でヒカルの父親を土に埋めた。僕は誰とも目を合わせないように、無心になってスコップで土をすくった。サラはとうとう泣き声を塞き止める事をやめ、無遠慮に泣いた。

 これで穴に埋めた虚無病患者は六人目だった。
 僕ら三人それぞれの両親だ。僕はお陰で、ヒカルとサラに共犯関係のような後ろめたい絆を感じていた。穴を掘る肉体労働の疲労を三人で分け合ったのと同じように、罪悪感も三人で分け合っているのだ。