amazarashi

LIVE 360°
虚無病

虚無病

2017.6.21 Release

小説「虚無病」封入

amazarashi
LIVE 360°「虚無病」Trailer

Release Info

Blu-ray
初回生産限定盤 通常盤

初回生産限定盤 LPサイズパッケージ仕様

通常盤

【初回生産限定盤】
¥5,600+(tax out) / AIXL-83

LPサイズパッケージ仕様
ライブ映像「amazarashi acoustic live 2017.02.21」収録

小説「虚無病」封入(六章追加)

【通常盤】
¥5,000+(tax out) / AIXL-84
小説「虚無病」封入(六章追加)
DVD
初回生産限定盤 通常盤

初回生産限定盤 LPサイズパッケージ仕様

通常盤

【初回生産限定盤】
¥4,900+(tax out) / AIBL-9379~9380 ※DVD2枚組

LPサイズパッケージ仕様
ライブ映像「amazarashi acoustic live 2017.02.21」収録

小説「虚無病」封入(六章追加)

【通常盤】
¥4,300+(tax out) / AIBL-9381
小説「虚無病」封入(六章追加)

収録曲

共通収録曲

amazarashi LIVE 360° 「虚無病」 at Makuhari Event Hall 2016.10.15
  • OPENING
  • <虚無病 第1章>
  • 虚無病
  • 季節は次々死んでいく
  • タクシードライバー
  • 光、再考
  • <虚無病 第2章>
  • 穴を掘っている
  • 吐きそうだ
  • ジュブナイル
  • ヨクト
  • <虚無病 第3章>
  • アノミー
  • 性善説
  • 冷凍睡眠
  • カルマ
  • <虚無病 第4章>
  • 逃避行
  • 多数決
  • 夜の歌
  • つじつま合わせに生まれた僕等
  • <虚無病 第5章>
  • 僕が死のうと思ったのは
  • <エンドロール>
  • スターライト

初回生産限定盤(Blu-ray・DVD共通)のみ収録

amazarashi acoustic live 2017.02.21
  • 光、再考〜季節は次々死んでいく
  • この街で生きている
  • ヒーロー
  • 僕が死のうと思ったのは
  • 夏を待っていました
  • 命にふさわしい

小説

amazarashi LIVE360°「虚無病」封入の小説「虚無病」より
第一章~第四章が公開 「虚無病」

― 小説 ―

「虚無病」

第一章

“観察報告書”
(出所不明。ファイル共有ソフトで流れたもの。)
(一部抜粋)

 おしなべて無気力、無感動。全ての者が一日の大半を寝て、あるいは座って過ごす。簡単な意思の疎通は可能だが、能動的なコミュニケーションは調査期間中一度も見られなかった。生理的欲求にともなう、必要最低限の行動(食事、排泄)は観察員に促されてはじめて行う。それ以外のおおよその人間的活動は一度も見受けられなかった。
 被観察者自身の氏名や、生い立ちに関する呼びかけには頷きでの返答をする事から、意識においての、記銘、保持については異常ないと推測できる。だが、その全貌については、専門の医療機関での更なる調査が必要だ。しかし倫理的、法的な観点から本人又は親族の許諾が必要不可欠なため、厚生労働省からの(つまり国からの)この疾患への定義づけが待たれている状況である。

 また、発症から一年経過とされている九名の罹患者においても、回復にいたった者は未だおらず、精神的、器質的な疾患の範疇をこえた、恒久的な障害として扱う可能性も鑑みる必要がある。

 感染経路が未だ特定できないため、これを感染症とは定義できず、またテレビ、ラジオ、電話、インターネット上の動画や音声の視聴、書籍、新聞、コンピュータ上のテキストなどの閲覧により感染したとの報告が多数あるため、“言葉”による感染の可能性を指摘する声が広く伝聞されているが、その科学的根拠は希薄で、噂の域を出ていない。
 その発症時の状況から、心因的なショックやストレスによる精神疾患の可能性が高く、PTSDやうつ病との症状の類似性も含め、今後の調査過程においては更なる精査が求められる。


“ニュースサイトの記事”
二〇一六年十月二十二日

 昨今、発症が急速に拡大しており、その猛威が懸念されている、いわゆる「虚無症候群」について、二十二日、厚生労働大臣が緊急会見を開き「非常事態状況下にはない」と明言した。
「症状も軽度で、感染症と確定する根拠もない」ため、「国内に懸念される非常事態とは言いがたい」とし、事実上のパンデミックを否定する見解を示した。
「虚無症候群」とは先週十五日から突発的に発症が拡大した原因不明の疾患で、その症状は無気力、無感動、行動力の低下など、精神疾患の症状に似ていると指摘されているが、その原因はまだ特定されていない。
 インターネット上では、「虚無病」と呼ばれ、感染者の家族らが、症状の異常性をSNS上で訴えた事がきっかけとなり社会問題にまで発展している。また、“テレビ、インターネットで感染する”との噂が爆発的に広がり、今回の厚生労働大臣の会見は、この一連の騒動に答える形で開かれた。
 その症状から、うつ病や引きこもりなど、現代の社会問題にも関連付けられて語られることも多いこの「虚無症候群」いまだ解明されていない謎は多いが、現代社会の心の闇の深さを推し量る、今日の象徴ともいえる事件かもしれない。



「ナツキ、やめなって」
 サラの言葉に驚いて、僕は手にしたコピー用紙の束から目を上げた。カビの臭いが鼻をかすめた。
「虚無病うつるよ」
 彼女は言い放ち、パソコンの前の椅子に腰掛けて窓の外を退屈そうに眺めた。
 僕はコピー用紙を、積み上げられた資料の山に戻し、椅子に座るサラを見つめた。 開け放った窓の外で鳥が鳴いている。彼女の首筋を流れる汗が、ティーシャツの首元から胸元へもぐり込むのをたっぷりと時間をかけて見た。
 外で賑やかな夏たちのさえずりは、のろまな時間の流れを嘲笑ってるみたいだ。
「ヒカルは?」
 僕はヒカルが集めた書類の山を、途方もない気持ちで眺めながら聞いた。
「お父さんと話してる」
 サラはそう答えてしばらく黙ったあと、「つまらないね」と呟いた。

 あらゆる退屈しのぎは奪われてしまった。テレビもラジオも、インターネットも本も、もはや命を賭して手にするものになった。
 僕はベッドにもたれて、たしかに、と思った。
「この世界はつまらない」

― 小説 ―

「虚無病」

第二章

夕方、ヒカルが自室の床にコピー用紙を敷き詰めていた。かねてから調査していた虚無病に関する資料だ。インターネットのニュースサイトや、省庁公式サイトに掲載された注意文のコピー、この付近の地図。聞きかじった噂を書き殴った紙もあった。
 ヒカルの家で三人で暮らしはじめてから二年近くになる。正確に言えばヒカルの父親を入れて四人だが、虚無病患者を一人と数えるのは、僕にははばかられた。“言葉”が危険なものとなった今、信頼できるもの同士寄り集まるのは必然だった。

 ヒカルは日に焼けた赤銅色の腕で、コピー用紙を並べながら、僕とサラに説明する。
「もうこの辺の食料は限界だっていう話しはしただろう」
 サラは遠慮がちにうなずく。いつもは天真な彼女も、いよいよかと構え、憂鬱な表情だった。
「ここを出て行くのはしょうがないとして、問題はどこへ行くかだ」
 みずから率先してこの付近を散策していたヒカルが、以前から食料調達が難しくなってきたと話していたのは僕らも知っている。スーパー、コンビニ、食品工場、農家の倉庫、窃盗の真似事を僕らは繰り返してきたが、それももう限界だとは感じていた。だからこそ食料は切り詰めていたが、それでも切羽詰まった選択をいよいよ迫られている。
 ヒカルが提案したのは県境をこえたM市へ向かう事だった。M市はここより都会だし、その近郊には山や自然も多い。農業も盛んだから、最終的には農作物を作り、自給自足で暮らすのが一番いい、とヒカルは続けた。
「でも、この町に食料がないんだったら、M市だって一緒じゃないか?」
 僕が問うが、
「でももうここに留まる理由はない」
 そうヒカルに言われて、ヒカルの父親の顔が浮かんだ。そして同時に自分の両親を思い出して、罪悪感に胸が疼いた。

「楽しそう」
 サラの素っ頓狂な言葉は、張りつめた部屋で滑稽にたわんだ。無理をしてるのが分かった。ヒカルに気を使っているのだ。でも、その気遣いにいつも救われていた。特に僕は。
「あとは暴漢が市内をうろちょろしてるから、できるだけ身を隠していこう。最近は変な宗教も流行ってるらしい」
 ヒカルは神妙な顔で言った。「変な宗教?」とサラが聞きかえす。
「虚無病患者を仏様と崇めてるらしい。こんな時代だからな」

 そこまで話して、ヒカルは「さあ」と立ち上がった。もう夕焼けの橙も暗色を強め、夜になりつつあった。僕も覚悟を決めて立ち上がったが、サラは口元だけに微笑みを貼付けて、一点を見つめて座っていた。



「じゃあ親父、寝てくれるか」
 そのヒカルの言葉に、懐かしい温みを感じた。ヒカルの父親は相変わらず無反応だったが、長く伸びた前髪から覗く瞳は、肯定の光をたたえたように見えた。
 ヒカルが父親の手をとり、庭の深い穴にいざなう。父親の足取りは赤子のようで、手を引くヒカルの顔に浮かぶ不安と慈しみは、まるで父親のそれだ。ちぐはぐだった。
 穴の底に父親を仰向けに横たえ、父親の胸に顔をうずめた。目を閉じて、心音を確かめるみたいに。今度はヒカルが抱っこをせがむ幼子のように見えた。
 僕はたまらず目をそらす。サラは軒先にうずくまって、両手で泣き声を塞いでいるようだったが、しゃくり上げた声は漏れ出て、虫の泣き声と混じり合って静謐な夜空に響いた。

「お待たせ」とヒカルが穴から這い上がり、三人でヒカルの父親を土に埋めた。僕は誰とも目を合わせないように、無心になってスコップで土をすくった。サラはとうとう泣き声を塞き止める事をやめ、無遠慮に泣いた。

 これで穴に埋めた虚無病患者は六人目だった。
 僕ら三人それぞれの両親だ。僕はお陰で、ヒカルとサラに共犯関係のような後ろめたい絆を感じていた。穴を掘る肉体労働の疲労を三人で分け合ったのと同じように、罪悪感も三人で分け合っているのだ。

― 小説 ―

「虚無病」

第三章

真夏の県道を南下する僕ら三人は、すぐに疲れ果ててしまった。ヒカルの家を出て、親しんだ町を飛び出して、勇んで歩いたのも数時間。すぐに空腹になり、道すがら見つけた家や倉庫に忍び込んでは食料を探し、進むペースは想像した以上に遅くなっていた。

「そもそも生きる理由なんてないのにね」
 忍び込んだ一軒家の台所、シンクに腰掛けたサラはみかんの缶詰を空けながら呟いた。無造作にみかんを一粒つまんで口に放り込み「でも空腹は堪え難い」とため息をついた。
「生きる理由なんて、満腹の人間にだけ与えられる権利なんだよ」
 サラはまるで自分に言い聞かせるみたいに喋り続ける。僕は台所の引き出しを物色しながら、もっともだと同意した。
「まるで野良犬の気分だ」
 ヒカルが冷蔵庫の中の腐臭に鼻を歪ませて言うと、サラは空き缶が転がるみたいに甲高く笑った。

 そのとき、家の外で声が聞こえた。
 瞬間、僕らは緊張し、顔を見合わせ、台所のシンクの下に集まりしゃがみ込んだ。腐臭を逃がす為に空けていた窓から、男が喋る声が聞こえる。しかもその声はだんだんと大きくなり、近づいてきているのが分かった。
「ラジオ?」
 ヒカルが声を出さずに、口を動かしてしゃべる。確かに、その男の流暢な話し方は、ラジオ番組のパーソナリティのように聞こえた。
 やがてそれは車のエンジン音と共に、僕らがいる家の前に止まったのが分かった。それは選挙の演説か、街宣車のアジテーションのような大音量で、僕ら三人はたまらず耳を塞いだ。なにより虚無病の感染を恐れた。
 ヒカルはリビングの窓のカーテンまで忍び足で近づき、外の様子をうかがった。
「涅槃原則だ」
 その名前には聞き覚えがあった。かつてヒカルが教えてくれた、虚無病発生以降に発足したという、仏教系の新興宗教の名前だ。
 サラが不安気な目で
「話してみようか?」
 と問う。
「だってもう逃げられないし、いい人たちかもしれない」
 僕は未だ流れ続けるラジオの番組の音に耳を塞ぎながら、十中八九まともな奴らではないと思った。でも、もう逃げ場もない。
 
 そうこうしている内に、玄関のドアが開く音がした。僕ら三人は目を合わせ、観念してうなずきあう。ヒカルが先頭になって玄関に向かった。

 玄関に立っていた男は、鳶服を着ていた。白髪混じりの長髪と、細身だが真っ直ぐな背筋は、苛辣で近寄りがたい雰囲気を感じさせた。
「生存者か」
 彼のしゃがれた低い声は、何か得体の知れない恐ろしさ含んでいて、僕らに有無を言わせない威圧感があった。彼はドアから車へ手を挙げ、合図しているようだった。一人ではないという事だ。

────それでは今年の夏に流行ったあの曲です。

 相変わらずラジオの音声は猛々しく喋り続けている。
 鳶服の男は僕らを顎で促し、全員が外に出た。街宣車の天井にスピーカーが乱暴に括り付けてあった。車体の側面には、赤いペンキのゲバ字で“涅槃原則”と書いてあった。

 運転席からもう一人の男が降りてくる。作業着を着たその若い男は野球のバットを手にし、こちらをいぶかし気に見ながら近づいてくる。
 サラが焦ったように、鳶服の男に話しかける。
「あの、私たちお腹がすいてて、もう食べるものもなくて困ってたんです。助けてくれませんか」
 大音量のラジオが懐かしい歌に変わる。僕らが高校に通っていた時期に流行っていた、女性シンガーのラブソングだった。
 作業着の男が鳶服の男を「タダノリさん」と呼び、バットを手渡した。バットを受け取ったタダノリは、作業着の男に話す。
「彼女は無貧で苦しんでらっしゃる」
 そう言うとバットを振りかぶり、サラの側頭部めがけて振り抜いた。
 サラの頭は地面に打ち付けられ、身体は弓なりにしなって砂利道に転がり、肢体はもんどりうった。打揚げられた魚みたいに痙攣し、やがて動かなくなった。ゆっくりと頭部から血溜まりが広がっていくのを、僕は黙って見ていた。

 頭の中は真っ白だった。
 タダノリは満足気にサラの死体を見つめ、口を開いた。
「彼女は救われた。これ以上カルマを積むことはない」
 街宣車から流れるポップソングは夏の恋を歌っていた。

― 小説 ―

「虚無病」

第四章

訳も分からず立ち尽くしていた僕の腕をタダノリが乱暴に引っ張り、僕は街宣車に乗せられた。作業着の男が叫んだ。
「タダノリさん、彼は解脱してます」
 見るとヒカルがさっきまでの僕と同じように立ち尽くしていた。タダノリが怪しむように眉をゆがめてヒカルに近づく。顔を覗き込んだり、目をこじ開けて瞳孔を確かめたりしたのち、「解脱者の可能性がある。丁重に案内しなさい」と命令した。
 ヒカルに虚無病が発症したんだと、なんとなく僕は理解した。ヒカルは二人の男にうやうやしく導かれ、街宣車の助手席に乗せられた。

 街宣車は発進し、運転しているタダノリが僕に向けてしゃべりだす。
「お前らが言う虚無病というのは、涅槃に入滅した解脱者なのだ。輪廻の苦痛から解放された尊い存在だ。あの死んだ女は煩悩に苦しんでいた。輪廻してもまた苦しむだろうが、生きたままカルマを積み続けるくらいなら死んだ方がましだ。」
 そう言って振り返り、後部座席に座った僕の目を一瞥した。その目は地獄まで続く巨大な穴のようで、僕は恐怖した。膝が震え出し、込み上げる絶望を抑えきれなくなっていた。サラは死んだ。ヒカルももう死んだも同然だ。そして、僕もいずれは。
 僕が恐れにおののく様子を見て、タダノリは笑った。
「その臆病さも煩悩だ。お前も修行でその苦痛から解放されるかもしれない」

 車はさほど遠くない市内の小学校についた。僕はされるがままに腕を引かれ、校舎の中に連れて行かれた。やがて視聴覚室まで着くと、何やらテレビニュースの音声が聞こえた。
 タダノリが視聴覚室の扉を開き、誰かを呼ぶと、丸坊主の袈裟を着た、壮年の男が出てきた。その僧侶はにこやかな表情でクニヨシと名乗った。
「私が涅槃原則の代表です。恐れなくても大丈夫。君もここで修行すれば楽になれますよ」
 視聴覚室の中では二、三十人の信者らしき男女が座禅を組んでテレビを見ていた。昼のニュース番組だ。僕はその座禅の群れに座らされた。

 クニヨシは僕の横で語る。
「いわゆる虚無病が発生した当時を覚えているかい。私たちは涅槃と呼んでいるがね。二〇一六年十月十五日、なんらかのメディアによって発せられた言葉が涅槃に入滅する鍵だと言われている。テレビ、ラジオ、インターネット。私たちはそれを研究し、その“言葉”を見つけることを目標としている。実際、入滅した解脱者も多く居るんだよ」
 そう言ってクニヨシは、前方にあるホワイトボードの下を指さした。そこには三人の虚無病患者が座ったり、寝そべったりしている。そしてその中に虚ろな目をしたヒカルも座らされている所だった。
「君の友人はラジオの音声で入滅したそうだね。どれ、その音声を研究するとしよう」
 そうクニヨシが言うと、あの街宣車で流れていたのと同じラジオ番組が流れ出した。



 夜になり、僕は視聴覚室の大勢と一緒に雑魚寝させられた。ヒカルも含めた虚無病患者は別室に連れて行かれたようだった。
 このままここで暮らすのだろうか。そしていずれは僕も虚無病になり、生きる屍となるのか。もしくはサラのように殺されるのか。
 暗くなった視聴覚室にあのラジオ番組が静かに流れ続けている。あの女性シンガーのラブソングも歌詞を覚えるくらい繰り返し聴かされた。その度にサラの死に際を思い出し、声を殺して泣いた。気が狂いそうだった。

 カーテンもブラインドもない視聴覚室の窓から星空が見える。僕はもう全部諦めていた。
「そもそも生きる意味なんてないのに」
 サラが言っていた言葉を反芻する。どうせ、どこに行ったって同じだ。この世界はもう終わったようなものだ。僕は疲れ果てて眠った。



「ナツキ、起きろ」
 ヒカルの声だ。僕は息を飲んで飛び起きた。
「静かに」とヒカルは僕を制し、「逃げよう」と僕の腕を引く。
「虚無病だったんじゃないのか?」
 視聴覚室を忍び足で抜け出しながら、僕は驚きを隠せず聞いた。
「嘘に決まってるだろ、話しは後だ」
 そう言われて押し黙った。僕は混乱していたが、同時に、いつもヒカルに助けられてるなと他人事みたいに思った。
 校舎の玄関までたどり着いたとき、背後で叫び声が聞こえた。
「脱走者だ!」
 その声とともに何人かの足音が近づいてくるのが聞こえた。
 ヒカルが叫んだ。
「逃げるぞ、走れ」